ノーチェ
「それなら、」と口を開いた啓介くんは
おぼんの上に一人用の小さな土鍋を置いてあたしに差し出した。
「お粥、あいつに持ってってやって。」
「お粥…?これ、啓介くんが?」
「まぁ。だてに長年一人暮らししてませんから。」
少し皮肉めいた口調で笑うと、啓介くんはコップ一杯の水と粉の風邪薬をおぼんに追加して置く。
「階段上がって一番手前があいつの部屋だから。」
「…わかった。」
カウンターから立ち上がったあたしは
おぼんとお土産袋を手に階段を上がり始めた。
遠ざかる二人の話し声とは比例して、階段を上がる毎にあたしの鼓動が乱れ始める。
…どんな顔して会えばいいの?
鈍る決心とは裏腹に、すぐに薫の部屋の前に着いてしまった。