ノーチェ
ベッドに寝そべる薫の肩を遠慮がちに揺する。
心なしか、その肩から伝わる体温が熱いのがわかった。
「莉伊…。」
「ん?」
「冷蔵庫から、冷えピタ取って…。」
「冷蔵庫?」
寝転がったままの薫は腕を上げて
「本棚の隣、」と冷蔵庫を指差した。
8畳程の殺風景なフローリングの部屋をぐるりと見渡すと、確かに本棚の隣にあたしの膝くらいの高さで小さな冷蔵庫が置いてある。
他にはテーブルと二人掛けの黒いソファ、液晶テレビ。
無造作に積み重ねられた洋服。
薫の部屋は、必要最低限のものしかなかった。
そう言えば、豪邸の前で出くわした時
荷物を運ぶ為に車でここまで送ったな。
なんて思いながら冷蔵庫を開ける。
ひんやりとした冷気があたしの頬を撫でた。