ノーチェ
「あーマジだりぃ。」
なんて言いながらタオルケットにくるまる薫の背中を見つめて、あたしは拍子抜けしてしまった。
『行くな。』
あの真っ直ぐな瞳も
触れた唇も
薫は覚えてないらしい。
「…なぁんだ…。」
ポツリと呟く。
怒りとか、悲しいとかそんなんじゃなくて。
ただ、自分自身に恥ずかしくなった。
…意識してたのはあたしだけ?
「…あ?何か言った?」
「ううん!何でもない!」
焦りながら答えたあたしに薫は
「んじゃ、莉伊添い寝してよ。」
とタオルケットを開いてあたしに手招きする。
「バカじゃない。何であたしが!」
「…あそ。冷てぇな。」
ふん、と鼻を鳴らした薫は額に腕を乗せて瞼を閉じた。