ノーチェ
「薫くんに好きな人!?初耳なんだけど!」
興味津津、といった感じで菜月がレジに身を乗り出す。
「一体誰っ?莉伊知ってるんでしょ!?」
「それは、薫から聞きなよ。あたしから言えな……。」
そう言い終える寸でのところで、店の扉についた鈴が鳴った。
あたしと菜月の視線が店先に移る。
「こんにちわ。」
…噂をすれば影、とはこうゆう事だろう。
灼熱の太陽の下、その透き通るような白い肌はやけに目につくと思う。
艶のある黒い髪の毛が日傘の隙間から揺れて
黒目がちの瞳がぶつかった。
戸惑いを隠せないのは
あのキスが、まだ唇に残ってるから。
「…百合子さん…。」
ポツリと名前を呟くと
彼女は黒髪を耳に掛けて小さく頭を下げた。