ノーチェ


……………



「どうした?浮かない顔して。」


トン、と的に刺さる音があたしを我に返した。

アルコールの混じる店内で、ダーツを手にした薫は

「莉伊の番。」と顎で合図をする。



「…あぁ、ごめん。」

へへっとごまかすように笑ってあたしは的を狙ってダーツを放った。

だけど今し方、違う事を考えてたあたしに
ダーツは思うように綺麗には刺さらなかった。



「彼氏と何かあった?」

「……彼氏なんかじゃ、ないってば。」


視線を合わせずに、ビールを口に運ぶ。

夏の仕事終わりのビールは、いつもなら美味しく感じるはずなのに何故か今日は苦くて飲めたもんじゃない。



溜め息混じりでカウンターを見上げると
啓介くんと菜月は笑顔を浮かべて話込んでいた。



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