ノーチェ
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高級、って言葉が似合う程そのイタリアレストランはアンティークな造りだった。
大理石の床に、窓一面に広がる東京の夜景。
静かな店内に流れるクラシックが、その雰囲気を更に際立てた。
だけど、肩に力が入ってしまうのは
このレストランのせいだけじゃない。
「わりぃな、本当に来てもらって。」
「う、ううん!平気!」
いつも隣から聞こえるウォレットチェーンの音も今日だけは聞こえない。
髪型はいつもと同じでもシックなグレーのスーツに、薄いピンクのネクタイをする薫は
やっぱり、どこか上品な香りを漂わせてる。
「あたし、変じゃない?」
そんな薫に、あたしは小さく尋ねた。
「平気だって。あんま、かしこまらなくていいから。」