ノーチェ
ガシャン!
と割れたグラスからこぼれたワインは
そのまま大理石に赤く広がってゆく。
「莉伊?どうした?」
隣から聞こえた薫の声が宙に消えた。
「莉伊ちゃん、大丈夫!?怪我はない?」
心配してあたしの元に寄ってきてくれた百合子さんは
店員を呼んで素早く割れた破片を集める。
偶然、なんて言葉じゃきっと片付けられない。
『お前の恋は、間違いなんかじゃねぇよ。』
ねぇ、薫。
あなたは、あたしにそう言ってくれたよね。
その言葉が、ずっと自分を責め続けたあたしを救い出してくれた。
―――じゃあ、これは?
これでも、あたしの恋は間違いじゃない?
点と点が繋がる。
「……桐生さん…。」
揺れる瞼が、そっと彼を滲ませた。