ノーチェ
見られたくない。
勘違いされたくない。
ねぇ、あたしが好きなのはあなた。
桐生さんなの。
「…ごめんなさい…。あたし…。」
居てもたってもいられなくて、あたしは席を立ち上がった。
息が、苦しい。
「莉伊!」
薫の声が、あたしの背中を呼び止める。
だけど、振り返らなかった。
振り返れば、桐生さんと目が合ってしまう。
だから振り返られなかった。
「莉伊!おい、待てって!」
外は夜と言えど、蒸し暑い。
湿気の混じった夏の夜は撫でる風も生温くて
気持ちが悪かった。
「莉伊っ!」
ぐいっと引っ張られ
あたしと薫の視線がぶつかって。
「……お前…。」
その時初めて
自分が泣いている事に気が付いた。