ノーチェ



「莉伊、何があった?」

眉を下げた薫は
あたしの腕を掴んだまま見つめてくる。

その視線があまりに真っ直ぐで、あたしは目を逸した。




遠くで、打ち上げ花火の音がする。


『今日、花火大会あるの知ってる!?』

あぁ、そう言えば
菜月がそんな事言ってたっけ。



涙を流しているのに
頭だけはやけに冷静だった。




「莉伊、聞いてんのか?」

更に引っ張られた腕を
あたしは抵抗して振りほどく。




「何でもないから。」

「…何でもなくねぇだろ?」

「本当に、何でもないって。」


出来るだけ明るく、愛想笑いを薫に見せた。


「ちょっと用事思い出したの。ほら、今日花火大会じゃん!」

取ってつけたようなあたしの言葉。



「彼氏とさ、見る約束してたから。」

笑顔で、そう言った。



< 148 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop