ノーチェ
「莉伊、何があった?」
眉を下げた薫は
あたしの腕を掴んだまま見つめてくる。
その視線があまりに真っ直ぐで、あたしは目を逸した。
遠くで、打ち上げ花火の音がする。
『今日、花火大会あるの知ってる!?』
あぁ、そう言えば
菜月がそんな事言ってたっけ。
涙を流しているのに
頭だけはやけに冷静だった。
「莉伊、聞いてんのか?」
更に引っ張られた腕を
あたしは抵抗して振りほどく。
「何でもないから。」
「…何でもなくねぇだろ?」
「本当に、何でもないって。」
出来るだけ明るく、愛想笑いを薫に見せた。
「ちょっと用事思い出したの。ほら、今日花火大会じゃん!」
取ってつけたようなあたしの言葉。
「彼氏とさ、見る約束してたから。」
笑顔で、そう言った。