ノーチェ


………………


夏が、終わる。
一瞬の花火のように
夏は駆け足で過ぎて。

それが、切なく感じるのはどうしてだろう。



だから夏は苦手だ。

幻のように消えては
また、巡る季節に現われる。


まるで、彼のような
幻の如く。





「莉伊、今日暇?」

「…何で?」


鮮やかな黄色の花をバケツに入れてゆく。

向日葵は夏の人気者。


だけどあたしは好きじゃない。
花なら、薔薇が一番美しい。


そんな事をぼんやりと考えながら、仕入れたばかりの花々をバケツに並べた。



「最近、ACQUA行ってないじゃん。」

隣で同じく仕事をこなす菜月は、少しふてくされたように呟いた。


ACQUA(アクア)とは啓介くんのバーだ。

あたしは何も言わずに
そのまま菜月の言葉に耳を傾ける。



< 150 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop