ノーチェ
終話ボタンを押して
少し離れた場所で煙草を吸う薫に振り返った。
目が合って、セブンスターを親指と人差し指で持つ薫は
「行けよ。彼氏と会うんだろ?」
そう言って、優しく笑った。
ふわっとぬるい風が頬を撫でて、だけどやっぱりどこか涼しく感じる。
「…薫、あたしに用事があったんじゃないの?」
少し躊躇いがちに聞き返すと、薫は煙草を靴で揉み消して
「いや、ほらこの前、お前何か変だったから。」
気になって、と呟いた。
「最近、アクアにも来ねぇし。」
「……色々、立て込んでて…。ごめんね。」
俯き、髪を耳に掛けたあたしに薫はポケットに手を入れて言った。
「それなら、いいんだけど。」
月明りに、薫の笑顔が切なく揺れる。
じゃあな、と小さく手を振った薫はそのまま振り返る事なく歩き出した。
あたしもそんな彼を見届けて、反対方向へと歩き出す。
――8月が終わる。
一つの夏が、あたし達それぞれの想いを残して終わった。