ノーチェ
「ど、どうしたの?」
突然のその着信に
あたしの心は相変わらず煩い。
電話越しに居る彼が見てるはずもないのに
髪の毛を整えた。
『今、大丈夫?』
宴会の笑い声が聞こえたのか、桐生さんはどこか躊躇いがちにそう尋ねてくる。
「だ、大丈夫!今、会社の人たちと飲んでて…。」
咄嗟についた嘘。
だけど桐生さんには知られたくなかった。
…合コンに行く女だなんて思われたくない。
そうか、と呟いた桐生さんは続けて、思わぬ言葉を投げ掛けてきた。
『今から、会える?』
「え…?今、から?」
…会える、の?
チラリと腕時計を見る為に腕を上げる。
時計の針が指しているのは、PM11:35。
本来なら、奥さんと一緒に居る時間だった。