ノーチェ
桐生さんは、煙草をそのままにあたしが居るベッドへと近付いてきた。
明かりのない部屋で、真っ直ぐにここまで来られるのは
もう、何度このベッドで抱き合ったか、そう示しているように感じる。
「…薫と知り合いだったなんて驚いたよ。」
そしてサラリ、とあたしの髪を撫でた。
彼の口から紡がれる薫の名前が、あたしの罪悪感を膨らませてゆく。
「……莉伊?」
俯いたあたしに、桐生さんは撫でていた手を止めた。
…どうしたらいい、なんてお互い口にしない。
あたしも桐生さんも
本当は、わかっているんだ。
――この関係を、終わらせるべきなのを。
だけど、あたしが言えない事も
きっと彼は気付いてる。
……そんな優しさが、あたしを傷つけてる事も知らずに。