ノーチェ
『相手の心が見えればいいのにね。』
いつかの、菜月の言葉が蘇る。
その言葉を
今になって同じように願う。
繰り返される季節の中であと何度傷つけば
あたしの幸せは訪れるのだろう。
あと何度、自分の運命に立ち向かえば幸せになれるのだろうか。
………………
カラン、と聞き慣れた鈴の音。
だけど懐かしく感じる程それは心地よい音色だった。
「莉伊!」
ぱぁっと花が咲いたように笑顔を向けた菜月に
あたしも自然に笑顔をこぼす。
そしてそのまま視線を横に向けると
「いらっしゃい。久し振りだね。」
グラスを拭いてる啓介くんも優しくあたしを迎えてくれた。
80年代のジャズが相変わらず流れるこのバーは
やっぱり、あたしを優しく包んでくれる。