ノーチェ
「中学に上がる前、だったかな。」
鼻をかすめたメンソールの香りに、啓介くんの煙草の銘柄を今更ながら知った。
「姉貴が出来た、なんて突然言い出すから何事かと思ったよ。」
ふふ、と笑った彼は
まるでその時を鮮明に思い出したかのように目を細める。
「親が再婚して、百合子さんと一緒に暮らし始めたあいつは、それから何かに反発するように非行に走って。」
俺は至って真面目だったけど、と言い直した啓介くんに
少しだけ場の雰囲気が和んだ気がした。
「でもきっと、色んな葛藤があったんだと思う。
今まで平凡な人生だったのが一変して塚本総合病院の息子、って呼ばれるようになってさ。」
苦い顔をした啓介くんにあたしも視線をカウンターに落とす。