ノーチェ


バタン、と勢いよく扉を開けて、あたしは外に出た。

急いで出たから、サンダルがちゃんと履けていない。


それでも
あたしはもつれる足を懸命に動かしてアパートの階段を降りる。



「薫!」

呼び掛けると
彼は耳にあてていた携帯を下ろしてあたしに視線を向けた。



「今お前に電話してた。」

「…知ってる。」


あたしの言葉に
少しだけ笑みをこぼした薫は、静かに携帯を閉じた。




――どうしてだろ。


あんなに避けていた薫を前にすると
情けないくらい、自分の心が浮き出てしまう。


そして気が付いた。





…薫に、会いたかったんだと。





「どうしたの、こんな時間に。」

何だか妙に恥ずかしくてとりあえず言葉を繋ぐあたし。



「…あぁ、」と
呟いた薫はコンビニの袋を差し出して

「ちょっと飲まねぇ?」

そう言った。



< 168 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop