ノーチェ


「…どうぞ。」

「おじゃましまーす。」

前を歩く薫の背中を見ながら、あたしはリビングの電気を付けた。


今思えば
薫がうちに上がるのは初めてで、変な緊張感があたしを包む。

だけど薫は何度も来た事があるかのように
ドカっと床に腰を降ろした。



「暑ぃな、この部屋。」

夏が終わったと言ってもまだ少し暑さが残る9月の初め。

残暑が蒸した部屋に充満してる。



「窓、開けるね。」

そう言って薫を横切るとカチっと鳴るライターと共に煙が舞い上がった。



「ちょっと!うち禁煙!」

「いいじゃねぇか!んな事気にすんなって。」

「もー、うち灰皿置いてないし。」

懐かしい、この感じ。



今までぎくしゃくしていた分、この空間が嬉しくて薫の笑顔があたしを温かくしてくれる。



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