ノーチェ
こんな事を聞いてどうするのだろう。
聞いたところで、傷つくのは目に見えてるじゃないか。
傷ついて、傷ついて。
それでもまた、傷を増やして。
そうする事でしか
あたしは生きていけないのかな。
……バカだな、あたし。
ぎゅっと缶を握ると
水滴が手を伝ってテーブルに新たに雫を落とす。
プルタブを空けて、ごくりとビールを飲んだ薫は
「いつからだろ。俺が高校に上がる前…くらいじゃねぇかな。」
呟いて、更にビールを煽る。
「へぇ……。」
「勇人さんはさ…あ、旦那、勇人って言うんだけど…。」
「…うん。」
薫の口から、桐生さんの名前がこぼれた。
ズキン、と確かな痛みを伝えてくる胸。
窓から入る風が、二人の間をすり抜けた。