ノーチェ
―――あの時。
あの時、薫に
桐生さんとの事を話せていたら
何か変わってたのかな。
傷も、浅く済んでたのかな。
だけどね、薫。
あの時、あなたに話せなかったのは
薫に嫌われたくなくて。
今のこの関係を、壊したくなくて。
不倫をしてると知っていても、あなたはこんなあたしを受け止めてくれたから。
どこかできっと
あなたはあたしをわかってくれてる、そう思っていた。
だけど、それは違ったよね。
あたしが、あなたにわかって欲しかっただけ。
あなたなら
わかってくれる、と思い込んでいたの。
あなたの傷にも
気がついてあげられなかったくせに、なんて身勝手なあたし。
…ごめんね、薫。