ノーチェ
「お前さぁ、」と口を開いた薫は、寝そべっていた体を起こしてそのまま煙草に火を付けた。
「酔っ払いすぎだよ。」
「…え?」
薫に向き直ると、再びズキンと痛む頭。
「お前、もしかして覚えねぇの?」
「……うん…。あたし…何か変な事、言ってた…?」
灰皿替わりのペットボトルは既に煙草で埋まって、その役割を果たせてはいなかった。
そんなペットボトルにも気にせず、灰を落とす薫は
「いっその事、薫と~って。」
寝癖で跳ねた髪を直して言った。
「嘘っ!?本当に!?」
「嘘に決まってんだろ。バーカ。」
「…なっ!ちょっと、薫っ!」
「バカでー。本気にしてやんの!」
真っ赤になったあたしの顔を見て薫が笑う。
薫がこんなに笑った顔を見るのは、酷く久々のような気がした。