ノーチェ


薫はすぐにあたしをからかう。

だけどそれが嫌な訳じゃなくて。


桐生さんにも見せた事のない笑顔を何故か薫には晒け出せた。




「俺さ、今仕事探してんだ。」

「え?仕事?」


聞き返したあたしに、煙草を消した薫は

「まぁ、いつまでも啓介に世話してもらう訳にはいかねぇし。」

菜月ちゃんの為にも、と付け加える。



「早いとこ決めて、一人暮らしでもするよ。」

「…そっかぁ。」


…そうだよね。
今のままじゃ、ダメなんだよね。

薫には薫の、みんなにはみんなの生活がある。


わかっているのに
みんながバラバラになるって考えると
寂しい、って思うのはあたしだけだろうか。


何も、会えなくなるって訳じゃないのに。




< 178 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop