ノーチェ


「薫、」と呼び掛ける低い声。

それは桐生さんの口から発せられたものだった。



「何か用事があるんじゃないのか?」

「え?あ、いけね!もうこんな時間じゃん!」


腕時計を見た薫は

「莉伊、悪い!俺これから面接なんだ!また連絡する!」

そう言って慌ただしくバイクに跨がると
爆風を吹かせて颯爽と走り去ってしまった。



「…ったく。相変わらず騒がしい奴だな。」

ふぅ、と溜め息をついた桐生さん。



あたしは石のようにその場から動けないまま。

ここには今
あたしと桐生さん、二人きり。



どうしよう。
今更ながら、何て言い訳したらいいの?

仲がいいとは言え、薫を家に泊めたのは紛れもない事実だ。



きっと、桐生さんも勘違いしてる。



「莉伊。」

呼ばれてドキリと肩が竦む。



「ちょっと、時間あるか?」



< 183 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop