ノーチェ
鼻をかすめるコーヒーの香りが、どことなくアクアを思い出させる。
違うのはと言えば、このカフェで流れているのはクラシック。
ついでに
啓介くんがいつも淹れてくれるのを飲み慣れてるせいか、ここのコーヒーは苦くてあたしの口には合わなかった。
アイスコーヒーに氷が溶けて、紫煙が宙を舞う。
セブンスター。
だけどあたしの前に座ってるのは薫ではなく、桐生さんだった。
「…こんな所、誰かに見られたら大変ですよ?」
先に口を開いたのはあたし。
あの後コンビニを出たあたしと桐生さんは
その足で近くのカフェへと入った。
彼と外で会うのは
あの旅行に行ったあの日だけ。
だから尚更、周りの視線が気になって仕方ない。