ノーチェ
確かに、薫はあたしにとって『特別』な存在になってる。
でも、そこに『友達』以上の感情がある訳じゃない。
まして、『好き』だなんて。
あたしの言葉に
ふっと優しく笑った桐生さんは
「いつでも連絡していいから。」
そう言って煙草を消すと名刺を差し出して、伝票を持ったまま立ち上がった。
遠ざかる、桐生さんの背中。
あたしはそっとその名刺を手に持ち上げた。
塚本総合病院
外科医 桐生 勇人
その裏には
090-XXXX-XXXX
携帯の電話番号。
慌てて振り返ると
もう桐生さんの姿はなくて。
あたしはもう一度、その名刺に書かれた番号に視線を置いた。
『いつでも連絡していいから。』
その言葉が、あたしの視界を滲ませた。