ノーチェ
だけど菜月は急に潮らしく黙り込んで、あたしは首を傾げた。
「菜月?どーしたの?」
店内の薄暗い明かりが菜月の表情を隠しているよう。
あたしはワイングラスを置いて、菜月の顔を覗き込んだ。
「……菜月?」
呼び掛けると、彼女の肩が小さく揺れているのがわかった。
……泣いてる、の?
「菜月?どうしたの?啓介くんと何かあった?」
不安に駆られて、つい早口になってしまう。
だけど急に泣かれてしまえば、誰だって焦るだろう。
「…ごめ…、あたし…。」
「…うん。どうしたの?話してみなよ。」
子供をあやすように優しく菜月に問い掛ける。
いつもは明るい菜月。
こんなふうに感情を殺して泣くなんて
きっと何かあったに違いない。
あたしは小さく溜め息をはいて話を聞く覚悟を決める。