ノーチェ
シン、と静まる部屋の中とは反比例して
テレビの雑音と共にあたしの心臓が煩く騒ぐ。
ぎゅっと携帯を胸に抱えて、薫に背中を向けた。
「…ごめん…、ちょっと外、出てくるね。」
そう告げて玄関に向かうと携帯の震えが止まる。
そしてドアノブに手を掛けたその時
「…彼氏、から?」
と、背中から聞こえた薫の声。
振り返ったあたしの瞳に映ったのは、切なく揺れる、薫のまなざし。
心臓を直接掴まれたような、鋭い痛みが胸を貫いた。
「……すぐ、戻るから。」
薫の視線に耐え切れずあたしは外へと飛び出す。
そのまま駆け足でアパートの階段を降りて
少し離れた場所で膝を抱えるように座り込んだ。
――苦しい。
桐生さんを好きになってから初めて、心の底からそう思った。