ノーチェ
…罪と、薔薇
暗闇にオレンジの炎がジリジリと煙草の先端を染める。
彼の口から生まれる煙を目で追い掛けながら訪ねた。
「…帰るの?」
腕だけをシーツから出すと部屋の冷気があたしの熱を冷ましてゆく。
煙草は嫌いだった。
彼が煙草を吸う時は
ここを出て行く証拠。
奥さんの元へ、帰るという事だから。
「…あぁ、」と短く返事をした彼はくわえ煙草のまま
ベッドの下に無造作に落ちたワイシャツへと腕を通す。
そして慣れた手付きでネクタイを締めると
まだ長い煙草を灰皿に押し付けた。
そんな彼の一連の動作を他人事のようにベッドの上で眺める。
「莉伊。」
突然名前を呼ばれて
あたしは顔を上げた。