ノーチェ
「行けよ、待ってんだろ?彼氏、が。」
チリっと音を立てて煙草は灰になる。
ちょうど中心まできた煙草の灰は今にも落ちそうだった。
嫌いな、煙草。
男が吸ってるのは
桐生さんと同じ、セブンスター。
バツが悪くなったあたしは男を抜かしてテーブルへと戻った。
相変わらず酔っ払った菜月はアルコールと香水を交じらせて
意中の男に寄り添うように楽しんでる。
邪魔をするのは悪い、と思ったけれど
「菜月、ごめん。あたし帰るね。」
そう言ってカバンに携帯を押し込んだ。
「えー!これからカラオケだよぉ?行かないの?」
「うん、本当ごめん。」
財布から5千円を抜き取って菜月に渡す。
ここは全部奢りだと聞いていたけど
借りを作って、また誘われるのは御免だった。
「りぃ~っ!」
菜月の呼び掛けをかわして出口へと向かう。
扉を開ける寸前、
薫と視線がぶつかった。
何か言いたげなその視線から逃げるように
あたしは夜の街へと走り出した。