ノーチェ
……………
菜月たちの挙式を終えて夜の街を歩く。
特に用がある訳じゃないけれど、真っ直ぐ家に帰る気にはなれなくて。
ドレスの上に羽織ったコートの襟を立てながら
見慣れた街並みに視線を預けた。
何度となく薫と歩いた街路樹。
白い吐息に混じるネオンが、ぼやけて見えた。
……会いたい、なんて思うのは身勝手すぎる。
だけど、薫と会わなくなったあの日から
あたしの瞳は確実に色を失ったと思う。
そして、相変わらず不定期に鳴る桐生さんからの電話。
あたしはまだ、性懲りもなく彼との関係を続けていて。
だけどやっぱり、自分から電話を掛ける事なんて出来なかった。
番号を教えてもらった日から今日まで、あたしから掛けたのはたったの一度だけ。
桐生さんに出会ったのは一昨年のクリスマス。
去年のクリスマスに初めて彼の携帯を鳴らしたんだ。