ノーチェ
…バカだなぁ、あたし。
自分で自分が嫌になる。
自傷気味に深い溜め息を吐き捨てて、ネオンに輝く街の片隅で夜空を見上げた。
……ねぇ、薫。
好きだ、と言ってくれたあなたは
今頃、何を考えてるのかな。
あの日の薫を思うと
あたしの胸はチクチク痛んで
眠れない夜がまた、一つ増えてゆくの。
それは日を越す毎に痛みを増して、もう夜はあたしに優しくないんだ。
夜のように優しかった薫も、あたしの隣にはいない。
見上げる瞳に
涙が落ちそうで、あたしはそれを振り払うように再び足を進めた。
人混みを縫うように早歩きですり抜ける。
そうでもしなきゃ、自分を支えていられなくなりそうで。
だけど、あたしの足は
その呼び掛けに止まってしまったんだ。
「莉伊ちゃん…?」
神経がピタリとその声に立ち止まる。
振り返ると、あの黒髪が花のようにふわりと揺れた。
「……百合子さん…。」
すれ違う心が
夜の闇に溶けて消えた。