ノーチェ
あの日の事を思い出すと辛い。
二人の関係を知っているのに、あたしはまだ桐生さんに抱かれてる。
自分が望んだ決断。
なのに、罪悪感だけがあたしを支配してゆく。
「……ごめんなさい…。」
「…え?」
ポツリとそう呟くと、あたしの言葉に目を丸くした百合子さん。
「あ、あの、この間、突然帰っちゃって…。」
慌ててその場を繕うと、「あぁ…。」と頷いた百合子さんはグラスを置いて笑った。
「ううん、あたしこそ無理に誘ってしまってごめんなさい。」
「い、いえ、そんな事ないです!」
雪のように笑う百合子さんは、細い指先で再びシャンパンを持ち上げる。
そしてゆっくりと口を開いた。
「薫、すごく心配してたのよ?あなたの事。」
「え……?」