ノーチェ
何の前触れもない、彼からの呼び出し。
それはいつもの事だったけど、続けて二日間会うのは初めてだった。
だからこそ、こうして一緒に居られる時間に
少し戸惑いを感じてた。
そんなあたしに
桐生さんは煙草の灰を一度、灰皿に落として
「家内の親父さんが倒れたんだ。」
とまるで他人事のように話始める。
「だから今日は朝まで一緒に居られる。」
「朝まで…?」
…本当に?
「…莉伊?」
呆気に取られるあたしを桐生さんが不思議そうに見つめる。
「あ…、ごめんなさ…。」
慌てて桐生さんから顔を逸す。
熱くなる目頭を、彼に見られたくなかった。
不埒なこの関係で
朝まで彼と居られるという事はあたしにとって
御伽話のように夢みたいな話だった。