ノーチェ
顔を上げた菜月は
目に掛かる前髪を押さえてあたしを見た。
「…あたしね、莉伊には本当に感謝してる。」
「……菜月…。」
騒がしい店内で
菜月の瞳が少しずつ潤んでゆく。
「…啓介にプロポーズされた時は、どうしようってすごく悩んで…。」
でも、と呟いた菜月は
「莉伊が、後悔しないようにって言ってくれたから…。」
小さく、笑って言った。
――後悔。
それは、今のあたしが一番感じてる言葉。
「莉伊が、あたしの背中を押してくれた。」
揺るがない、菜月の瞳があたしを映し
そして――――…
「あたし、今…すっごく幸せだよ。だから、ありがとう。」
「…菜月……。」
そのまま菜月は、あたしの頭を引き寄せて抱き締める。
「ありがとう、莉伊。」