ノーチェ
あたしはずっと
心のどこかで人の幸せを恨んでた。
自分の恋が不安定で
苦しくて。
だけど、抱き締める菜月の細い腕が
震える瞳が
菜月の言葉が、あたしの醜く歪んだ心を
優しく包んでくれた。
あたしの言葉一つで
菜月は『幸せ』だと、笑ってくれる。
大切な人が、幸せになるって事が
こんなにも自分を温かくしてくれるなんて、あたしは今まで知らなかったよ。
「……菜月…。」
ぎゅっと、彼女を抱き締め返すと、そっと体を離した菜月はあたしを見つめてくる。
「…今度は、莉伊の番だよ。」
「……え?」
濡れた頬を手の甲で拭った菜月は
「莉伊も、幸せにならなきゃいけないんだから。」
と少女のような笑顔をあたしにくれた。