ノーチェ


あたしはずっと
心のどこかで人の幸せを恨んでた。

自分の恋が不安定で
苦しくて。



だけど、抱き締める菜月の細い腕が
震える瞳が

菜月の言葉が、あたしの醜く歪んだ心を
優しく包んでくれた。


あたしの言葉一つで
菜月は『幸せ』だと、笑ってくれる。

大切な人が、幸せになるって事が
こんなにも自分を温かくしてくれるなんて、あたしは今まで知らなかったよ。




「……菜月…。」

ぎゅっと、彼女を抱き締め返すと、そっと体を離した菜月はあたしを見つめてくる。



「…今度は、莉伊の番だよ。」

「……え?」


濡れた頬を手の甲で拭った菜月は

「莉伊も、幸せにならなきゃいけないんだから。」

と少女のような笑顔をあたしにくれた。



< 229 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop