ノーチェ
そして店内の笑い声が鳴り止んで、冬の冷たい空気が扉から流れ込んでくる。
「胸につっかえた物、全部伝えてくるんだよ?」
菜月の言葉に振り返ったあたしの瞳に映った姿。
これは幻?
それとも、夢?
「………薫…?」
揺れるウォレットチェーンに擦り切れた、エンジニアブーツ。
破けたジーパン。
「…よぉ。久し振り。」
立てた髪の毛を揺らしながら、薫は少しだけ眉を下げてあたしに笑った。
夢なんかじゃない。
まして、幻なんかでもなくて。
…なのに、どうしてだろう。
薫、あなたがぼやけてよく見えないの。
「お前はいっつも泣きそうな顔してんな。」
「………っ。」
その笑顔に、ずっと。
ずっと、会いたかった。