ノーチェ
………………
暗闇にカチッとライターが鳴って、次いで冬の空気に煙が舞った。
「寒ぃな。莉伊、それじゃあ寒くねぇ?」
「…平気、あたし冬好きだもん。」
何だよ、それ。と笑った薫は自分の首に巻いてたマフラーをあたしの首に巻き付ける。
「……ありがと…。」
「どういたしまして。」
ふっと口を上げた薫は
そのまま視線を前に移して煙草を吸った。
久し振りに感じる、薫の優しさがあたしの胸に痛みを伝える。
だけどそれは嫌な痛みなんかじゃない。
優しい、痛み。
「…仕事、決まったんだってね。」
ツンとする鼻を紛らわすように薫に話を振る。
「あぁ。まだ駆け出しだけどな。」
「でも、まさかコックさん目指してるなんて思わなかった。」
ふふ、と笑うと
白い吐息が宙に浮かぶ。