ノーチェ
そこには眉をしかめて、ボストンバックを右肩に背負った薫が居て。
「薫くん!おかえりっ!」
「お前遅いよ、みんな腹ペコなんだからな!」
次々に飛び交う声に、あたしの胸が騒がしく音を立てる。
そしてボストンバックを床に置いた薫は
いつものエンジニアブーツを鳴らしてあたしを見つめると
「ただいま。」
そう一言、口を開いた。
「……おかえり、薫。」
何だろ、この気持ち。
いつも電話やメールで話してたのに、こうして目の前に居ると
照れくさくて薫の顔が見れない。
胸が高鳴って、自分が自分じゃないみたい。
…あたし、どうしちゃったの?
俯くあたしに構わず、隣に座った薫を合図に
「んじゃ、鍋しますか!」
と啓介くんが冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。