ノーチェ
鍋も中盤に差し掛かり、山盛りだった野菜もなくなった頃
「つーか、納豆ねぇの?」
と、薫が話を切った。
「何で急に納豆?」
「日本食っつったらやっぱ納豆だろ。」
そう言いながらも、鍋をつつく手は止めない薫。
「薫くんって、本当不思議な人だよね。」
菜月が、頬杖をついて言う。
「菜月ちゃんには言われたくねぇー!」
「確かに。俺も思う。」
「だね、菜月に言われたくないよね。」
再び言葉責めに合う菜月は、「もう!みんな嫌いっ!」とそっぽ向いた。
最初に感じてたぎこちなさは消えて、アクアに響いた笑い声。
それは、懐かしい
だけど、ずっとこのままで居たいと感じる瞬間だった。
みんなの笑顔が、あたしの胸のつっかえを消してゆく。
菜月も啓介くんも、あたしには薫同様、大切な存在だった。