ノーチェ


「桐生さん、」と呼び掛けると

『ん?何かあったか?』

優しくて、だけどもう手放すと決めた、桐生さんの声が聞こえる。




これは、悲しいんじゃない。

ただ、少し躊躇いが出てしまっただけ。



それが、涙として流れただけなんだ。



だけど、もう迷うのはやめるんだ。

お互いの為にも、この決断は間違ってなんかいないはずだもの。




「……今度会う時…、大事な話があるの。」

『話?』


あたしの言葉に

『それは今話せないような事か?』

と桐生さんが呟く。



「…うん。電話じゃなくて、ちゃんと会って話したいの。」

そうじゃなきゃ、きちんと捨てられない。



「次はいつ、会える?」

ちゃんと、思い出に出来ない。




好きで好きで
苦しい程求めた、あなたを

綺麗な思い出にしたいから。



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