ノーチェ


二人になった店内で
薫は煙草に火を付けると

「啓介、これから苦労すんなぁ。」

と鼻で笑った。



「だね。あたしもいつも菜月の酒癖の悪さには迷惑かけられっぱなしだったもん。」

「じゃあ、これからは啓介の役目だ。」


目を合わせて笑うと
薫はすぐに視線を逸して煙を吐き出す。



香るセブンスターの煙の中で、訪れた沈黙に思い浮かぶ

さっきの薫の瞳。



あれは、薫の不安を示してる視線だった。




「……薫。」

呼び掛けると、顔を前に向けたままの薫は

「何?」と答えた。



ねぇ、薫。

あたし、ちゃんとケジメ付けるから。



だから、もう一度。


「……あたし、別れるから。」

「え…?」


もう一度、あたしを見て欲しい。
なんて、そんな事言ったら怒るかな。



だけど―――…



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