ノーチェ


ぎゅっと、心臓が掴まれるような感覚。

掴まれてるのは腕のはずなのに。




シンと静まる店内で
ドキドキと鳴る鼓動があたし達を包んでゆく。


振り返らず、背を向けたままのあたしに薫は再び

「…今の言葉、俺…信じていいんだよな?」

と問い掛けた。




不安や切なさ、色んな感情が混じり合った声。



……薫。


あたしはそんなに、あなたを不安にさせてたんだね。




――でも、もう大丈夫。

大丈夫だから。



振り返ったあたしは薫に笑顔を向けて

「うん。」

一言、それだけ伝えた。




信じて、いいよ。

あたしは、決めたんだから。



桐生さんと決別して
そして、心の整理がついたその時

あなたの隣に居るのは
あたしでいたい、と。




もう、決めたの。




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