ノーチェ
そんな桐生さんを見て、少しだけほっとした自分がいた。
言わなきゃいけない、そう思っているのに
桐生さんの瞳に見つめられると、体が石のように固まってしまう。
別れなんて、今まで何度となく経験してきたはずのに
何度経験しても慣れないのは、自分が傷つく事を恐れているから。
…つくづく、バカな女だな、あたし。
自傷気味に溜め息をこぼすと
「莉伊。」と呼ばれてあたしは視線を上げる。
どうやら、電話は終わった様子。
だけど桐生さんは吸っていた煙草を消してあたしに告げた。
「俺も君に、話したい事があったんだ。」
「え…?」
……あたしに?
きょとん、と桐生さんを見上げると
ホテルの部屋にチャイムの音が鳴り渡った。