ノーチェ
ポンと頭を撫でた桐生さんは
「ちょっと、座ってて。」
とあたしをソファに座るよう促す。
あたしは言われるままソファに腰を降ろした。
そして桐生さんは扉に向かって足を進める。
ガチャ、と開かれた扉。
――それはきっと
あたし達の運命を左右する扉だったのかもしれない。
「随分遅かったな。」
ボソボソと聞こえる話し声。
部屋の角にあるソファに座ってたあたしから
その扉は見えない。
客室係りの人と話してるんだろう、なんて考えながら紅茶を口に運びテレビを見つめていると
ふいに、人の気配を感じてあたしは顔を横に向けた。
ドクン、と心臓が脈を打ってあたしの手から紅茶が入ったティーカップが滑り落ちる。
それは柔らかい絨毯に染みを作っただけで
カップは割れずに転がった。
「……莉伊?」
――見えない心に罪が弾け出した。