ノーチェ
全身から血の気が引いてゆく。
俯く視界に、薫の震える拳が見えて
次の瞬間、ダン!と何かを叩きつける音が響き、あたしの肩が竦み上がった。
「てめぇ、自分が何言ってるのかわかってんのか!?」
外にまで漏れるような怒声が、部屋一面に広がって。
胸ぐらを掴んだ薫は
「百合子は!!百合子はどうなるんだよ!?」
と言いながら、桐生さんを壁へ押し付けた。
「あんただってわかってんだろ!?百合子はもう……っ!」
うなだれる薫に、そっと掴まれた胸ぐらを振りほどいた桐生さんは
「…もちろん、わかってるさ。」
そう言って、シワの出来たワイシャツを整える。
あたしには二人の会話の意図が読み取れない。
と言うよりも、震えた体を抑える事が精一杯だった。