ノーチェ
「百合子を……。」
伏せた顔を震わせながらポツリと薫が呟く。
「…百合子を、裏切るのか……?」
その言葉に、ワイシャツを直す手を止めた桐生さんは
「百合子は知ってるよ。俺と莉伊の関係も。」
そう言いながら、ベッドに腰を掛けた。
………え…?
―――百合子さんが、あたしと桐生さんの関係を
知ってる?
思わぬ桐生さんの言葉に口を開いたのは、薫だった。
「どうして…、何でなんだよ!!百合子は、百合子はっ!!」
「薫、俺がここにお前を呼んだのはその事だ。」
ピタリ、と薫の動きが止まる。
そして、桐生さんは追い討ちをかけるようにそっと呟いた。
「俺は、莉伊と生きていくと決めた。」