ノーチェ
その言葉に、薫の顔つきが変わった。
静寂があたし達三人を包み込む。
張り詰めた空気が
あたしの回らない頭を混乱させてゆく。
――どうゆう、事…?
『俺は、莉伊と生きていくと決めた。』
桐生さんは確かに、そう言った。
……一体、何が起きてるの?
「……っざけんな…。」
薫の掠れた声に
あたしは顔を上げる。
「ふざけんなっ!!」
桐生さんに向けて叫んだ薫は踵を返して扉のドアノブを掴んだ。
「…薫…っ!!」
立ち上がったあたしは薫を追い掛けて、咄嗟に彼の腕を掴む。
だけどパシン、と風を切るような音と共にあたしの腕は宙を舞い
「触んな!!」
それと同時に、手の平を走る痛み。
「わりぃ……。一人に、してくれ…。」
震えた手の平で顔を覆った薫は、そのまま静かに部屋を去っていった。