ノーチェ
パタン…、と閉まった扉の前であたしは立ち尽くす。
痛む手の平が、あたしの涙を誘って。
「…莉伊、」と呼ばれて振り返った瞬間、涙は頬を滑り落ちた。
「……何で…どうして、薫に……。」
何故、薫をここに呼んだの?
何故、薫にあんな事言ったの?
――こんな形で
薫に桐生さんとの関係を知られるなんて。
一体、桐生さんは何を考えてるの…?
聞きたい事は山程あるのに、涙が邪魔して言葉にならない。
そんなあたしの前に立った桐生さんは、濡れた頬を撫でて
「……百合子は、病気なんだ。」
と一言、呟いた。
……え――――?
あたしは涙で潤んだ瞳を桐生さんに向ける。
背の高い桐生さんは
あたしを見下ろして、切なく眉を下げた。