ノーチェ
たまに聞こえてくる機械の音の中で、薫はゆっくりと口を開いた。
「…俺は、ずっと百合子を救いたかった。」
ポツリ、と廊下に響く薫の震えた声。
「だけど、俺がどんなに頑張ったとしても…百合子の病気は治らねぇ。」
あたしはただ黙って、薫の言葉に耳を傾けた。
「…おかしいだろ?医者のくせに、みんな百合子の病気は治らないって言うんだ。」
薄暗い夜の病院は
時が止まったように物静かで。
コートを羽織ってるはずの体は、どんどんと熱を失ってゆく。
「…百合子を助けられないなら、医者になる理由なんて俺にはなかった。」
そして言葉に詰まった薫は、両手で顔を覆って膝に肘を掛ける。
「……莉伊…。ごめん、俺は…っ。」
薫の涙が、病院の廊下に滴り落ちて。
「……俺は、お前を…。」
塞いだ瞳が
「お前を、赦せない…。」
もう一度、あたしを見つめる事はなかった。