ノーチェ


だけど、お焼香を済ませたあたしを薫が見る事は一度もなかった。




まるで、最初から他人だったような

あたしの事なんて、忘れてしまったんじゃないかと思うくらい


薫は最後まであたしを映してはくれなくて。





『お前を、赦せない…。』

薫が、あたしに言った最後の言葉。





赦して欲しい、なんて最初から思ってない。


…ましてや、赦してくれるだろう、なんて

一度も思わなかった。




なのに、あの言葉は
あたしの心に酷く色を残して

涙さえ、もう流れなかった。





花は枯れてしまった。



雪のように白い肌も華奢な腕も、あの黒髪も。

薫に似た、あの優しい笑顔も。





今はもう、写真の中でしか存在しない。


もう、触れられない。




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