ノーチェ
「莉伊?」
「ん?何?」
それは仕事を終えた後の出来事だった。
閉店ギリギリの接客で残業したあたしと菜月は
夜8時過ぎ、ロッカールームでエプロンを外し身仕度を整える。
ちょうどよくロッカーを閉めたそんな時だった。
「…大丈夫?」
その問い掛けに、ピタリと一瞬動きが止まる。
だけど悟られないように再び手を動かし、イスに腰を降ろしたあたしは
「うん、平気。薔薇の刺って結構痛いよね。」
そう言って、あははと菜月に笑顔を向けた。
だけど菜月の表情は至って真剣で。
「…違うよ。その事じゃない。」
「……………。」
そのまま、あたしは口を閉ざして床に視線を投げる。
「……薫くんの事、これでいいの?」